研究概要 |
先進複合材料である熱可塑性樹脂Poly-Ether-Ether-Ketone(PEEK)をマトリックスとするCFRPより非対称梁試験片を作成し,473K(200℃)の高温環境でモードIとモードIIの混合モード下におけるクリープ層間はく離き裂進展試験を行った。この時混合モード比(G_I/G_<II>)を1.83,l.00,0.30の3種類とし,クリープ層間はく離き裂進展に及ぼす混合モード比の影響について検討した。その結果,き裂は静荷重下で安定に進展し,き裂進展速度da/dtを全エネルギー開放率GtotalあるいはGtotal中のモードI成分G_Iで評価した場合,混合モード下では,純粋モードI下に比較してき裂進展速度が加速することが判明した。また,き裂先端におけるクリープ変形領域が負荷荷重中のモードI成分により拡大される場合,クリープ変形領域が周囲の弾性域に比べて小さくなる,小規模クリープ状態となることが判明した。これに対してモードII成分による拡大では,小規模クリープ状態の逸脱が生じる。これは,モードI成分によるクリープ変形領域の拡大は剛性の高い炭素繊維と直角方向であるため,その拡大が炭素繊維により拘束されるが,モードII成分による拡大方向は炭素繊維と平行であり,拘束が生じないためと考えられる。混合モード下におけるき裂進展速度はエネルギー開放率では評価できないが,き裂開口変位速度を考慮したクリープJ積分,Jにより評価することが可能であることが判明した。 一方、微視的なき裂進展機構の検討に関しては,まずほぼ単結晶材料のき裂進展挙動が観察できると考えられる一方向性けい素鋼板を用いて疲労き裂先端のすべり変形を今年度購入した超高分解能の原子間力顕微鏡より観察することにより,モードI型き裂進展の機構について考察を行った。疲労き裂先端で生じるすべり変形は,必ずしも連続的でなく離散的であることが明らかになるとともに,除荷時と負荷時で異なるすべり系が作動することも確認された。き裂先端近傍領域のすべり変形を定量評価することにより、疲労き裂は離散的なき裂先端近傍のすべりにより徐々に開口し,前サイクルのき裂先端に達した後,新たなすべりを発生することで進展する機構が明らかとなった。
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