研究概要 |
平成10年度は、各種施設における総体的環境と人間との関係を記述するために、主として病院、精神病院、小学校、痴呆性老人グループホームについてケーススタディを展開した。 ●病院についてはICUの領域構造をスタッフの動きから分析・考察し、医療看護行為がベッドサイドから病棟全体に及ぶことを見出した。 ●精神病院については、,病院内のふたつの公共部分での患者の行動の違いをビデオで詳細に記録分析することで、患者の公共空間に対する認知と使い方の違いを研究した。また、患者とスタッフに対するアンケート調査から、両者の病室の使い方の差を見出した。 ●小学校においては行動観察調査を行い、児童の社会構造と空間行動との関連を分析・考察した。また、前年度に実施した児童の環境認識に関する研究結果と合わせて、学校における児童の行動・心理と環境との関係について全体的な考察を行った。 ●痴呆性老人グループホームについては、入居者が環境に適応していく過程を行動特性、スタッフとの関係、生活パタンなどの面から多角的に分析した。 これらのケーススタディは、施設内では人間と構築環境との関係に、空間の公共性や他の人間との接触といった施設特有の社会的要因が影響していることを示すものである。これらから空間構成、空間の使われ方、施設内の社会的状況、行動規範などの軸から、環境のタイプを横断的に捉える枠組みが示唆され、本研究の追求するgeographyという概念からみた生活空間の再定義の足がかりが得られた。
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