平成11年度は人間の認知や行動に影響を及ぼす環境的要素を見出すために、主に精神病院、小学校、痴呆性老人グループホームでの継続調査を中心に行った。 □精神病院:畳の病室とベッドの病室で患者の行動やコミュニケーションがどのような違いを見せるかを調べるために、病室での過ごし方についてアンケートと観察調査を行った。その結果、畳の病室で観察された団欒はベッドの病室ではみられず、物理的な空間要素が患者の行動やコミュニケーションに大きな変化を与えることが確認された。 □小学校:日本と異なる文化や社会的背景を持つ児童がどのように環境に理解しているかを知るために、米国の小学校で日本と同様の手法(写真投影法、イメージマップ)を用いて調査を行った。その結果、児童は空間的な側面よりもその学校のプログラムや文化を通じた空間認識をしていることが明らかになった。 □痴呆性老人グループホーム:入居者が環境に適応していく過程を引き続き調査した。その結果、環境になじむに従って空間の使い分けに安定性が出てくることが見出された。 以上の調査結果から浮かび上がった環境的要素が、人間の認知や行動に与える影響は一過性のものだけではなく、人間の中に蓄積されることで作用するものも含まれている。そのような蓄積が本研究のジオグラフィーという概念の基本的な要素となっていることが考えられ、各研究を統合することでジオグラフィーの概念から見た新しい環境の据え方が示唆された。
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