建築の機能的側面から人間と空間との関係を捉える研究は、さまざまなアプローチにより、それなりの成果をあげているが近年注目されている人間の心理環境と出力としての人間行動との相互的関係性については十分に記述できていない。現実の環境と人間の意識上に再構成される環境との関係において個人環境が成立しているのではないか、これが本研究の仮説で、この検証を医療施設で試みたものが、病院地理学と定義した一連の研究である。 本研究は同様の視点から他のビルディングタイプや都市空間を解釈することで、病院にとどまらず人間の構築環境全般を説明しうる理論として建築地理学を提示することを目的とした。 このために医療施設(一般病院・精神病院)、教育施設(小学校)、高齢者施設(グループホーム・特別養護老人ホーム)といった代表的施設タイプと都市空間(高齢者屋外空間)を主なフィールドとして、調査を行ない、多角的な事象の記録の蓄積から建築計画学の新しい展開を試みた。今回の一連の調査・研究を通じて得られた知見は、児童・病人・高齢者・身障者を含むすべての都市居住者が持続的に生活し働ける都市の健康的環境の確立に応用できるものである。 今回の研究成果から考えられる統合的なコンセプト指向型の研究テーマは(1)構築環境のスケール、(2)用途の非限定性、(3)内外の積極的融合、(4)コミュニケーションの確立、(5)自己管理の促進、(6)安全と安心の確保にまとめられる。 20世紀の後半に発展を遂げ、大きな社会的貢献を行なった建築計画学が21世紀に向けてさらなる意味を持続するための一つの議論を提供できれば幸いである。
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