研究概要 |
肉牛の重要な形質である脂肪交雑の形成には筋肉組織内での脂肪細胞分化と脂肪蓄積が重要である。この脂肪蓄積の分子機構を解明するために、分子遺伝学および統計遺伝学の両面からのアプローチを行った。 分子遺伝学的アプローチとして、以下の4つの研究を行った。1,脂肪前駆細胞特異的に発現し脂肪細胞への分化を抑制する膜タンパク質pref-1をウシよりクローニングした。ウシpref-1はマウスのものと約80%のアミノ酸が一致していたが、中央部分で75個のアミノ酸が欠失しており、選択的スプライシングによるアイソフォームの1つであると考えられた。2,ウシ脂肪細胞が発現している遺伝子を大規模に検索するために、脂肪組織cDNAライブラリーからランダムに選んだ約100クローンについて一部の塩基配列を決定した。この中にはミトコンドリアゲノム由来のRNAがかなり多量に含まれており、脂肪組織におけるミトコンドリアの役割との関係の解析が必要であると考えられる。3,既にクローニングしたウシPPARγについて組換えタンパク質を生産し精製した。この組換えタンパク質を抗原としてウシPPARγタンパク質に対する抗体を作製する計画である。4,ウシ筋肉組織内での遺伝子発現を検出するための方法として、組換えタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色法を試みた。作製した組換えウシC/EBPδタンパク質に対する抗血清を用いて間接蛍光抗体法を行ったが、まだ明確な染色像は得られておらず、明確な染色像を得るための方法の開発が必要である。 統計遺伝学的アプローチとして、Gibbs Samplingを用いた混合遺伝モデルでのベイズ推定により、量的形質の表現型値のみを利用した各個体の主働遺伝子の遺伝子型およびポリジーン効果の推定の可能性について検討した。シミュレーションを用いた検討の結果、主働遺伝子効果が著しく大きい条件下では各個体の遺伝子型は正しく推定できたが、主働遺伝子効果が小さく表現型値の分布が正規分布に従う場合には推定の正確度は低下した。一方、ポリジーン効果の推定の正確度と主働遺伝子効果の大きさとの関連性は認められなかった。本方法によって、個体の主働遺伝子型ならびにポリジーン効果の同時推定の可能性が示唆されたが、現在、推定の正確度を向上させる方法に関する検討を行っている。
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