真核生物の細胞周期制御機構

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09307003
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 岡山 博人 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (40111950)
• 研究分担者: 田中 晃一 東京大学, 大学院・医学研究科, 助手 (90282615) ; 神野 茂樹 東京大学, 大学院・医学系研究科, 助手 (10251224) ; 永田 昭久 東京大学, 大学院・医学系研究科, 講師 (50155933)
• キーワード: rad22 / 分裂酵母 / RPA / 細胞周期 / S期

研究概要

哺乳動物の細胞周期開始には、Cdk4とサイクリンDの複合体の活性化が必要である.我々は、以前にCdk4がチロジン1T残基のリン酸化を受けることによって負に制御され、このリン酸化はDNA損傷によるG1期停止に重要な役割を果たしていることを見いだした.今年度は、このリン酸化がG2期制御に用いられているCdc2キナーゼのチロジンリン酸化と異なり、Cdk4のチロジンリン酸化がG0期-G1期遷移の制御に専ら働いていることを見いだした.チロジンリン酸化されたCdk4を特異的に検出する抗体を用いて各細胞周期におけるCdk4のチロジンリン酸化レベルを検討したところ、S期、G2期、M期のみならず、G1期を通過あるいは足場の消失によるG1期停止している細胞では、Cdk4のチロジンリン酸化は全く見られず、血清飢餓によって細胞がG1期に停止した後リン酸化が起こることが判明した.血清刺激により細胞周期を開始させるとCdc25Aフォスファターゼの誘導と一致して脱リン酸化され、Cdk4が活性化された.この前にUV照射によるDNA損傷を与えると脱リン酸化は阻止され、同時に活性化が抑制された.
分裂酵母のrad22遺伝子は、出芽酵母のRAD52のホモログで二重鎖切断修復酵素系の部品である.したがって、RAD52と同様にこの遺伝子を破壊しても、生存できる.しかしながら、我々は、この遺伝子の温度変異株が細胞周期変異株の性質を示すことを見いだした.この破壊株の多コピー抑圧遺伝子としてrad22以外にrti1と名付けたホモログ遺伝子が単離された.いづれの遺伝子の破壊株も生存できるが、二重変異株は致死となった.さらに解析の結果、Rad22は、少なくとも一部は、replication factorAを活性化することによって、自然に起こる二重鎖切断の修復とは無関係にS期の完了に重要な役割を果たしていることが明らかになった.

研究成果

• [文献書誌] Ota, S.et al.: "Constitutive association of EGF receptor with the Crkll-23 mutant that inhibits transformation of NRK cells by EGF and TGF-beta" Cell Signal. 10. 283-290 (1998)
• [文献書誌] Jinno, S.et al.: "Cell cycle start from quiescence controlled by tyrosine phosphorylation of Cdk4" Oncogene. 18. 565-577 (1999)
• [文献書誌] Tnanaka, H.et al.: "Fission Yeast Cdc24 Is a Replication Factor C-and Proliferating Cell Nuclear Antigen-Interacting Factor Essential for S-Phase Completion" Molecular and Cellular Biology. 19・2. 1038-1048 (1999)
• [文献書誌] Yamamoto, H.et al.: "Isolation of a mammalian homologue of a fission yeast differentiation regulator" Molecular and Cellular Biology. (in press). (1999)
• [文献書誌] Tahara, S.et al.: "Functional Domains of Rep2, a Transcriptional Activator Subuniit for Rep2-Cdc10, Controlling the Cell Cycle “Start"" Molecular Biology of the Cell. 9. 1577〜1588 (1998)
• [文献書誌] Tsukahara, K.et al.: "An RNA Binding Protein Negatively Controlling Differentiation in Fission Yeast" Molecular and Cellular Biology. 18・5. 4488-4498 (1998)