研究概要 |
細胞周期制御は、細胞外環境変化に対応し細胞の増殖と静止と分化のタイミングと進行を司る最も高次な制御装置の一つである.当研究は、この装置の包括的な解明を目指すものである.そのために、高等真核生物に近いとされている分裂酵母と齧歯類線維芽細胞を実験モデル系として、この装置の解明を進めている.当研究期間においては、以下の点を明らかにし、細胞周期と分化の開始制御機構と姉妹染色体結合制御機構の解明に重要な成果を得た. 1,分裂酵母の細胞周期の開始と分化開始を制御する2種の新規因子を同定した.一つは新規サイクリンで他はB-型サイクリンの分解を制御する因子である. 2,姉妹染色体結合の形成と維持を行う2種類の新規因子を同定した.一つは、複製後修復に必須な Polηと融合した蛋白で姉妹染色体結合の形成に、他は姉妹染色体結合の安定化と勝手な姉妹染色体結合形成の抑制に働く因子で、姉妹染色体結合形成制御機構の一端が明らかになった. 3,哺乳動物の細胞周期開始に必須なD型サイクリンとキナーゼの組み合わせのうちCdk6-D3複合体は、CKl阻害蛋白による阻害を受けにくく増殖停止や開始条件で細胞の増殖能を制御する重要な役割を担っている. 4,我々が以前に発見したCdk4のチロジンリン酸化が、専ら静止期からの細胞周期開始制御に使われていることを見いだした. 5,発癌刺激によって誘導される線維芽細胞の足場非依存性細胞周期開始にCdk6が使われ始めることを見いだし、癌化によっておこる足場非依存性細胞周期開始が、元来足場非依存性増殖を行う造血細胞と同じ機構でおこっている可能性を提唱した. 6,分裂酵母の分化制御因子のヒトホモログを単離した.このホモログは、造血系細胞で発現が最も高く、ヒト白血病細胞の分化を制御する活性を持つ.
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