免疫担当細胞間の相互作用を人為的に操作し治療に応用するという免疫療法は従来の治療法で克服できない疾患に対する新たな試みとして注目されている。抗原提示細胞にひとつである樹状細胞(DC)は強力な抗原提示能を有し、生体内ではT細胞による獲得免疫の中心的役割を果たしている。DCの強力な抗原提示能を利用し、癌患者で癌細胞に特異的な免疫応答を誘導し、癌細胞を排除しようとする免疫療法が世界中で試みられている。一方、DCにはその表面マーカー、形態、分化過程などから数多くのサブセットが存在し、一部のサブセットはT細胞の免疫応答を抑制する作用を有することが知られている。本研究ではこの点に着目し、DCの中でT細胞の免疫応答を抑制するサブセットを同定し、それらを用いて自己免疫疾患に対する選択的な免疫療法を開発することを目的とした。 まず、モデル抗原として破傷風トキソイドを用いて、末梢血中のHLA-DR^+CD4^+CD11b^-の形質細胞様DCまたはDC2の前駆細胞(pDC2)がT細胞の抗原特異的なアナジー(至適な抗原刺激を受けても反応しない状態)を誘導することを明らかにした。さらに、自己免疫疾患として強皮症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、抗リン脂質抗体症候群、重症筋無力症を対象疾患とし、それぞれの疾患において病因と関連する自己抗体の産生を誘導する自己反応性CD4^+T細胞を同定した。強皮症とITP患者では、自己抗原をパルスしたpDC2を用いて自己反応性T細胞のアナジーの誘導が可能であった。したがって、抗原をパルスした自己pDC2を投与することで自己反応性T細胞の選択的なアナジーが誘導できる可能性が示された。同様の手法はアレルギー性疾患や移植後の拒絶反応に対しても応用可能であり、今後倫理的な問題が解決されれば難治性患者に対するpDC2を用いた免疫療法を行う予定である。
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