研究概要 |
破骨細胞の活性化には非レセプター型のチロシンキナーゼであるc-Srcが重要な役割を果たしていることがノックアウトマウスを用いた研究から明らかになっている。c-Srcのキナーゼ活性はそのC末端に存在するチロシン残基(chickではTyr527)のリン酸化、脱リン酸化によって調節されているが、Csk(C-terminus Src family Kinase)はTyr527を特異的にリン酸化し、Srcの活性を負に調節するキナーゼとして同定された。われわれはこれまでにアデノウイルスベクターが破骨細胞に効率よく遺伝子導入が可能であることを報告した(Tanaka et al.J.Bone Mineral Res.13:1714-1720,1998)。今回われわれはCskおよびキナーゼ活性を欠損した変異型Csk遺伝子を組み込んだアデノウイルスを作成し、その破骨細胞に対する効果を調べた。Cskウイルスは破骨細胞におけるc-Srcのキナーゼ活性を抑制するとともにその細胞骨格を変化させ、骨吸収能を抑制した。また頭蓋骨にインターロイキン1を投与すると著明な骨吸収がおこるが、Cskウイルスはその吸収を抑制した。逆に変異型Cskウイルスは破骨細胞におけるc-Srcの活性を促進し、にin vitro,in vivoで骨吸収を促進した。次にアジュバント関節炎ラットにおけるCskウイルスの作用を検討した。アジュバント関節炎ラットでは関節周囲の骨破壊が誘導されるが、Cskウイルスはこの骨破壊を抑制した。以上の結果からCskウイルスを使った遺伝子治療は骨破壊性疾患の有効な治療法となりうると考える。
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