研究概要 |
破骨細胞は骨吸収を中心的に担う細胞であり、正常な骨モデリング・リモデリングのみならず、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、あるいは癌骨転移など整形外科疾患のさまざまなアスペクトにおいて重要な役割を果たす。したがって破骨細胞の骨吸収メカニズムを分子レベルで明らかにすることによってこれらの疾患の新しい治療法を確立することが可能である。ある遺伝子の細胞における機能を調べる方法として遺伝子導入が極めて有効である。しかしながら破骨細胞は最終分化した分裂能のない細胞であり、通常の方法では遺伝子導入が不可能である。本研究においてわれわれはアデノウイルスベクターが破骨細胞への遺伝子導入法として極めて有用であることを明らかにした(Tanaka et al.,1998)。ノックアウトマウスを用いた研究から破骨細胞の活性化に非レセプター型チロシンキナーゼであるc-Srcが重要な役割を果たすことが知られている。そこでわれわれはc-Srcの活性をネガティブに調節するcsk遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクター(cskウイルス)を作成した。このウイルスによって破骨細胞にcsk遺伝子を大量発現することが可能であり、このとき破骨細胞のc-Src活性は強力に抑制された。またin vitroにおける破骨細胞の骨吸収能もcskウイルスによって強力に抑制されることが明らかになった。続いてわれわれはマウス頭蓋骨上へのインターロイキン1投与モデル、あるいはラットアジュバント関節炎における骨破壊がcskウイルスによって抑制されることを見出した(Miyazaki et al.,2000;Takayanagi et al.,1999)。これらの結果よりアデノウイルスベクターが破骨細胞へのin vitroのみならずin vivoでの遺伝子導入法として有用であること、csk遺伝子導入によるc-Src活性の抑制が骨破壊抑制法として有用であることが明らかになった。本研究で確立された方法を用いて今後さらに破骨細胞の活性化メカニズムを明らかにすることができると考えている。
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