研究課題/領域番号 |
09307033
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
整形外科学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 浩 東京大学, 医学部・附属病院, 講師 (40282660)
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研究分担者 |
織田 弘美 東京大学, 医学部・附属病院, 助教授 (60101698)
中村 耕三 東京大学, 医学部・附属病院, 教授 (60126133)
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研究期間 (年度) |
1997 – 1999
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キーワード | 塩基性線維芽細胞増殖因子 / 骨折 / 類人猿 / 慢性関節リウマチ / 骨吸収 / 骨形成 |
研究概要 |
我々はこれまでに塩基性線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)の局所単回投与が骨形成を促進することを、ラットやウサギなどの動物モデルを用いて報告している。さらに本研究では臨床応用を目指して、カニクイザル(年齢4〜5歳、雄)右尺骨の骨幹部骨折モデルにおけるFGF-2の効果を検討した。その結果、媒体投与群(10例)における仮骨形成は全体的に乏しく、うち4例には骨折後10週においても骨折部位の癒合が認められなかった。これに対し、FGF-2投与群(10例)における仮骨形成は旺盛で、骨折後6週で全例が良好な癒合を示した。投与後4週よりFGF-2投与群では媒体投与群に比して著しく高い骨密度を示し、両群の差は時間の経過とともに大きくなった。骨折部の力学的強度の各パラメーターでは健常側と比較して、FGF-2による骨強度の明らかな増加が確認された。以上より、FGF-2は、サル骨折モデルにおいて仮骨形成および骨折部位の癒合を促進して強度をより早期に回復させる事が明らかとなった。本研究は、FGF-2の世界に先駆けて骨折治癒促進剤としての本剤の臨床応用への可能性を支持するものといえる。 一方、FGF-2の骨形成に関する検討の陰に隠れて今まであまり注目されていなかったのは、その強力な骨吸収促進作用である。59例のRA患者と37例のOA患者の膝関節から採取した関節液を分析の対象とした。RA患者については、膝関節のX線写真を用い、Larsenの分類に従って軽度破壊群(30例)と高度破壊群(29例)に分類した。TNFα、IL-1α、IL-6、sIL-6RとLarsenのGradeの間に有意な相関はなかったが、FGF-2は正の相関を示した。RAを高度破壊群と軽度破壊群にわけて分析すると、FGF-2のみがこの両群間で有意差を示した。また、高度破壊群の関節液による骨吸収活性および破骨細胞形成活性はFGF-2の抗体を投与することによって抑制された。以上のことにより、関節液中のFGF-2がRAの関節破壊に関与している可能性が示された。 FGF-2はこのように強力かつ多様な作用を持った骨代謝調節因子である。薬理効果としては骨形成促進が優位となることは明らかであり、臨床応用に向けての発展が期待される。また、その生理的、病理的な濃度においては内因性のFGF-2による骨吸収促進病態が存在する可能性が示唆されている。このようにFGF-2は、骨疾患の病態解明および治療において新しいブレークスルーとなりうる可能性を充分に秘めたサイトカインであるといえる。
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