研究分担者 |
末崎 幸生 佐賀医科大学, 医学部, 教授 (80069484)
金品 昌志 徳島大学, 工学部, 教授 (80035617)
白浜 啓四郎 佐賀大学, 理工学部, 教授 (50039252)
真下 節 大阪大学, 医学部, 教授 (60157188)
寺田 弘 徳島大学, 薬学部, 教授 (00035544)
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研究概要 |
麻酔のendpointの抑制度とその麻酔薬のdosisとの関係からは麻酔薬の結合部位は約30あるという研究結果が出されている.これはとりもなおさず神経伝達物質の受容体や興奮に関わる生体高分子あるいはbulkとしての膜脂質など麻酔薬の作用対象となるものが数多く存在することを物語っている.近年,麻酔のあるものについてGABAA受容体蛋白に対する特異的作用やアセチルコリン受容体蛋白に特異的であるといった多くの研究が発表されている.これらの研究はこれらの受容体蛋白が意識や痛みなどに関わる麻酔薬の作用対象であるということを証明する根拠にはなるが,直ちに麻酔薬が作用する分子環境が特異的であるという根拠にはならない.作用が特異であるということと結合様式が特異であるということとは別の問題である.1960年代に報告されたXeのマッコウクジラのミオグロビンの一酸化炭素結合に対する特異作用がファンデルワールスカによる一般的な結合様式で結合していることが報じられている.このことは,麻酔薬(Xeは笑気より強力な麻酔作用がある)は特異的作用を示してもその結合様式は非特異的である典型的な証左である.このことをよりどころに本研究では麻酔薬が作用する部位の分子環境は共通した性質を持つという作業仮説をたてた. 研究成果としては以下のようなことが明らかになった.1)局所麻酔薬は神経軸索膜を通過する際に環境のpHに依存して解離型が膜に分配されるのに比べて非解離型は膜表面に濃縮されて分配する事が証明され,そのこと自体が活動電位の消失に関わり,またその際の軸索内部のpH変化から,通説となっている膜を通過した局所麻酔薬が膜の内部からNaチャンネルに結合するという機序だけではないという結論を得た.また,ジブカインのような局所麻酔薬では種々のアルカノールの存在下では結合性が増すことなども明らかになった.2)環境温度が低下するとMACが低下する現象を物性論的に解析し,麻酔強度は受容体の麻酔薬作用部位での結合濃度を示すものではないことを示した.3)β adrenergic-あるいはmuscarinic-受容体にαヘリックスの構造で膜を通過する構造を持つ点で非常に類似性の高いバクテリオロドプシンを用いた研究ではアルカノールの濃度依存性に蛋白の高次構造を変化させることから物性論的な影響を明らかにした.これらの知見は現在特異的作用があるとしている蛋白における麻酔薬の存在する分子環境を直接的に説明するものではないが生体膜における存在様式を考察する上で大きな進歩であったと考えている.
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