研究概要 |
慢性の病的持続性疼痛状態における脊髄後角細胞の細胞内カルシウムイオン濃度の定量化と部位的変化を評価することにより,疼痛情報伝達機序を解明した.また,脊髄スライス標本において,痛覚の伝達物質であるグルタミン酸,あるいはプロスタグランジンE2の投還流与による細胞内カルシウム濃度の量的および部位的変化を捉え,また,プロスタグランジン受容体拮抗薬の還流による影響をみた. 方法:坐骨神経結紮およびカラゲナンを用いたニューロパチックおよび炎症性疼痛モデルを用いて脊髄スライス標本を作製し,fura-2を負荷し,左右の脊髄後角細胞における細胞内カルシウム濃度の部位的変化を描出した.さらに,グルタミン酸またはプロスタグランジンE2を還流させて細胞内カルシウム濃度の部位的変化を描出した.さらにプロスタグランジン受容体サブタイプEP1受容体拮抗薬を還流投与し,その効果を検討した. 結果:ニューロパチックおよび炎症性疼痛モデルの脊髄スライスでは,病側の細胞内カルシウムイオン濃度が有意に高かった.このスライスにグルタミン酸またはプロスタグランジンE2を還流させると,カルシウムイオン濃度のさらなる上昇が病側にて認められたが,炎症性疼痛モデルの方がそれが著しかった.また,プロスタグランジンE2によるカルシウムイオン濃度増加はEP1受容体拮抗薬により拮抗された. 結論:ニューロパチックおよび炎症性疼痛モデルの脊髄において,病側の脊髄後角細胞は,すでに細胞内カルシウムイオン濃度上昇していることより細胞内伝達系の活性化が起こっており,さらに疼痛伝達物質(グルタミン酸およびプロスタグランジンE2)に対する感受性の増加(すなわち中枢性感作)が生じていることが明らかとなった.
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