繊維材料のもつ力学的特性を生かし、さらに新たな機能を持たせる方法として、これまでにコーティングや練りこみの方法がとられてきた。しかし、これらの方法は、洗濯堅牢性や摩擦堅牢性における問題や、その素材がもっている力学特性を損なう恐れがあった。そこで、光グラフト重合法を用いて表面のみを改質する研究を行ってきた。これまでの重合法では厄介な脱気操作を行わないで済む新しい方法の開発によって、簡便に表面改質ができるようになった。その結果、繊維基材へのアクリル系モノマーのグラフト重合を達成し、その表面特性を検討した。その検討項目は、原子間力顕微鏡(AFM)による表面特性、X線光電子分光法によるグラフト成分の同定、抗菌試験による抗菌評価、摩擦感テスターによる摩擦係数などである。さらに、グラフト層をより強固にするための試みとして、プラズマ処理の影響も検討した。すなわち、グロー放電によりグラフト鎖間に架橋を施すことを狙ったものである。方法は、グラフト重合化した表面にアルゴンによるプラズマ処理を行い、そのプラズマ処理時間とグラフト層の堅牢性との関係およびトルエンによる後処理効果をAFMのコンタクトモードによるスキャン荷重によって検討した。その結果、プラズマ処理時間には最適時間があり、表面に強固な膜が形成されることがわかった。さらに、この方法を応用して、ポリウレタン、ポリ乳酸へのグラフト重合も試みた。これらの材料は、被服材料としてだけでなく、生体医療材料としての用途の可能性も広がる。
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