これまでに繊維材料のもつ力学的特性を生かし、さらに新たな機能をもたせる表面改質を行なってきた。本年度は簡便な手法での抗菌性をもつ表面改質を行ない、その表面の物理化学的特性に加えて、皮膚との接触界面特性を評価した。 すなわち、合成繊維であるポリエステルやナイロン、さらには天然繊維である綿布に抗菌加工を施し、その抗菌性と安全性を評価した。具体的には、これまで、化粧品やシャンプーにも用いられている皮膚刺激性も少ないポリエチレンイミンを繊維に吸着させ、熱処理により固定化し、抗菌性をJIS L1902に則る定量試験(統一試験法)と定性試験(ハロー法)によって評価した。その結果、この加工布は繊維製品衛生加工協議会の定めるガイドラインによる、抗菌性および制菌性を保持していることがわかった。この加工布の洗濯耐久性をJIS試験に基づいて行なったところ、10回の家庭洗濯でも良好な抗菌性を保持していた。ハロー試験では、まったくハローが認められず、菌と加工布の直接接触によってのみ抗菌性を示すことが明らかとなった。このことは、皮膚の常在菌叢のバランスを崩すことなく、菌との共生を保ちながら、抗菌効果を示すことが可能であることを示唆している。この加工布の安全性に関しては、ヒト細胞を使ったヒト皮膚に近い構造をもつ三次元培養皮膚モデルを使って、皮膚刺激性テストを行なった。その結果、加工剤、加工布ともに陰性であり、安全性は高いことが確認された。なお、この加工による力学特性の変化は少なく、摩擦係数、接触角はやや低下し、衣服材料として優れた特性を示した。
|