研究概要 |
脳における動的視覚情報処理の仕組みを解明し,そのメカニズムを取り入れたパターン認識システムの新しい設計原理を開発することを目指して研究を進めた。高度のパターン認識を行なうシステムは生物の脳と同じように,自分の置かれた環境に適応したパターン認識能力を自己組織的に獲得していくことが求められる。 そこで,第1次視覚野に見られる複雑細胞のように,最適刺激が受容野内のどこに提示されても反応する細胞を,自己組織的に形成させるための新しい学習則を提唱した。この学習則によれば,入力層を横切って動く種々の方位の直線を学習刺激として与えているだけで,単純型や複雑型の受容野を自己組織的に形成させることができる。この新しい学習原理の有効性を,入力層,s細胞層(単純細胞型の受容野),C細胞層(複雑細胞型の受容野)で構成される3層の神経回路を用いて,シミュレーションで実証した。 新しい学習則では,S細胞への入力結合は,ネオコグニトロンの場合と同じようにwinner-take-all型の競合学習(後シナブス側の細胞間の競合)によって形成される。C細胞への入力結合も,S細胞と同じように競合学習によって形成されが,S細胞がその瞬時出力の大きさに基づいて競合するのに対して,C細胞はその出力の残効(trace すなわち時間平均)に従って競合する。また,S細胞は競合による勝者だけが入力結合を強める(勝者への入力結合にLTPを起こす)のに対し,C細胞の場合は,勝者が入力結合を強める(LTPを起こす)と同時に,敗者は入力結合の強度を減らしていく(LTD)を起こす)。なおこのとき,C細胞層にも抑制性細胞を導入し,興奮性シナプスだけでなくC細胞への抑制性シナプスも同時に強化することが,C細胞の自己組織化にとって重要である。
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