研究概要 |
生物の脳における動的視覚情報処理の仕組みを解明し,そのメカニズムを取り入れた情報処理システムの新しい設計原理の開発を目指した.このために特に高次脳機能の解明とその工学的実現に的を絞り,神経回路モデルを仲介とする合成的手法を用いて研究を進めた.本年度は特に,遮蔽物体を認識するシステムと,ネオコグニトロンによる手書き文字認識システムの実用化を中心に研究を進めた. 1.部分的に遮蔽されたパターンの認識 パターン(例えば文字)の一部が別の物体で覆い隠されていても,遮蔽物体の形が見えれば,容易に判読できることが多い.しかし遮蔽物体が見えないと判読はほとんど不可能になる.視覚系のこのような性質を説明する神経回路モデルを構築した.このアイデアについては昨年度報告したが,今年度は種々の条件の下でモデルのシミュレーションを行ない,モデルの構造に改良を加えた. 2.ネオコグニトロンによる手書き数字認識の実用化 当研究グループで研究を進めてきたパターン認識システムネオコグニトロンを,実世界の文字認識に適用するための研究も並行して進めた.このために,手書き数字の大規模データベースETL-1を用いて認識率を評価しながら,回路構造や学習方式に改良を加え,回路パラメータの探索を行なった.認識率は学習パターンの個数によって変化するが,例えばETL-1からランダムに選んだ3000個の数字を学習パターンとして用いた場合には,それと重ならない未知の3000個のテストパターンで測定した認識率は98%以上になっている.
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