研究概要 |
ホスホリパーゼD(PLD)の生理機能を調べるためショウジョウバエからcDNAをクローニングした.酵素は1,278アミノ酸残基(145,411Da)から成り,真核生物PLDで広く見られる5個所のコンセンサスとPXドメイン,PHドメイン,および2つのHKDモチーフを有していた.配列の比較からラットPLD1,PLD2と等距離にあると考えられたが,PLD1のようにARF,PIP_2によって活性化された.遺伝子は全長13kb,第2染色体右腕42A16-18にマップされ,10個のエキソンからなることが判明した.in situ hybridizationによって遺伝子が発生のどの時期に発現するのか調べたところ,卵,blastoderm初期,および成虫に発現しているが,blastoderm後期に消失することからPLDが初期発生の調節にかかわっていることが推定された. リゾホスホリパーゼは低分子量型酵素(24kd)とトランスアシラーゼ活性を併せ持つ高分子量型酵素(60kd)に大別されるが,今年度は新しい低分子量型酵素,リゾホスホリパーゼIIをクローニングした.IIもIと同じくエステラーゼファミリーに属し,GXSXGモチーフを含んでいた.Iについてはさらに解析を進め,ハーバード大Michel博士と共同してリゾホスホリパーゼ活性に加えてNO合成酵素のシスティンに結合しているパルミチン酸残基を除去する活性を有し,酵素の活性化に関係していることが判明した.高分子型酵素はリゾリン脂質のsn-1位,-2位から脂肪酸を遊離する活性だけでなく,それらの位置の脂肪酸を別のリゾリン脂質分子に転位する活性を有していることが明らかになった.とりわけリゾリン脂質sn-2位のアラキドン酸を別の分子のsn-1位に転位する活性が強く,従来合成経路が不明であったアナンダミドの前駆体1-アラキドニルレシチンを生成することが示された.
|