1)結晶の可視近紫外測定用分光装置の開発。 ミトコンドリア電子伝達複合体結晶の酸化還元状態や配位子結合状態を確実に見積もるための最も信頼できる方法はやはり可視近紫外分光法である。そこで本年度は結晶の可視紫外吸収測定のための分光器を設計製作した。問題点はX線回折実験用毛細管による光の散乱、ソ-レ帯の高い吸光度、結晶の方位特異性等にある。これらの問題点を解決するために、入射光ビームを細くする、光源を強くする、検出器の感度を高めることなどによって装置の改良を試みた。その結果、α帯周辺の吸収スペクトルはX線回折実験にも使える程度の大きさ(0.6mm程度)の結晶でも測定は可能になったが、吸光度がα帯の5倍ほどもあるソ-レ帯の吸収は0.2mm以下の厚みの結晶にしか利用できないことが明らかになった。 2)結晶凍結法の検討。 反応中間体を低温で固定してその結晶構造を解明するためには、まず結晶の質(規則性)を低下させずに凍結する条件を確立する必要がある。良い条件が見つかればむしろ凍結結晶の方が高い分解能を示すことがある。そこで最も高い分解能が得られているウシ心筋チトクロム酸化酵素結晶の凍結条件を検討した。その結果、酸化型では常温では3Å分解能程度までしかX線回折点が認められなかった結晶でも、凍結すると2Åを切る分解能のX線回折像を示す凍結結晶が得られるようになった。 3)部分還元型チトクロム酸化酵素の調整法と還元滴定。 部分還元型結晶を調整するためには還元及び酸化滴定条件を確立する必要がある。そこで、溶液でのチトクロム酸化酵素の酸化還元滴定条件を再検討した。この実験には嫌気性と標品の純度が最も重要であることが明らかになった。標品は再結晶によって純化し、酵素濃度は金属の定量によって分子吸光係数を再検討した。さらに高度の嫌気性を確立するために、ガラスと金属配管だけによって作られた酸化還元滴定装置を設計製作した。通常の酸素標品の還元には6電子当量酸化には4電子当量を必要とすることを明らかにした。
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