1.チトクロム酸化酵素 結晶化条件とX線回折実験条件を改良することにより、最高1.65A分解能のX線回折を示す結晶が得られるようになった。常温で2.30A分解能、液体窒素温度で2.0A分解能のX線構造が得られた。その酵素還元中心には過酸化物が架橋しており、Cu_Bのその他の三つの配位子のうち一つのヒスチジンイミダゾールとその近傍に位置していたチロシンとが共有結合によって連結していた。さらにNa^+結合部位がX線構造に検出された。また2.30A分解能の構造にはO_2還元中心とマトリックス側表面とをつなぐ水素結合ネットワークが2つ認められた。 2.35A分解能で決定された還元型のX線構造の酸素還元中心には架橋過酸化物が存在しておらず、CU_Bは平面三角形Cu^<1+>錯体を形成していた。この錯体の安定性がFe^<2+>-O_2型の異常な安定性の主な原因であると考えられる。また還元型になると、酸化型では分子内に完全み埋まっていたAsp51が分子表面に移動し、膜間腔の水層に接触することが明らかになった。また酸化型のときAsp51は水素結合のネットワークを通じてマトリックス側から水素イオンを取り込むことができることをX線構造は示していた。このような構造変化はAsp51がポロトンポンプ部位であることを強く示唆している。 酸化還元滴定実験により、4つの1電子酸化還元中心以外に2当量の電子受容部位を完全酸化酵素が持っていることが明らかになった。FTIRにより1官能基のカルボキシル基が還元によって解離することが示された。これらの結果は上述の結晶構造解析の結果を支持している。 2.複合体I 精製法の改良の結果、再現性収量、ロテノン阻害のどれもが、これまでの報告を上まわる標品が再現性よく得られるようになった。この標品によって、反応機構研究の第一歩として初期定常状態の解析を行った。その結果、ユビキノン-NADH-NAD^+-ユビキノールの順に基質と反応生物が結合、遊離する機構が明らかになった。
|