食餌、栄養に関係する発癌研究用実験動物としてのrasマウスの有用性の検討

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09308033
• 研究種目: 基盤研究(A)
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 光岡 知足 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 名誉教授 (30157549)
• 研究分担者: 中山 裕之 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (40155891) ; 日置 恭司 実験動物中央研究所, 室長 (80208735) ; 伊藤 登志雄 実験動物中央研究所, 室長 (20106644) ; 野村 達次 実験動物中央研究所, 所長 (10072399) ; 伊藤 喜久治 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (50100045)
• キーワード: 発癌 / rasマウス / 食餌

研究概要

すでに前回の研究班でジメチルヒドラジン(DMH)をrasマウスに皮下接種すると大腸癌の発生率が腸内フローラの違いにより、大きく影響されることを明かにした。しかし、DMH投与では導入されたc-Ha-ras遺伝子に変異がみられず、直接的な発癌物質、遺伝子変異、腸内フローラの関係を明らかにすることができなかった。そこで本年度は、すでにc-Ha-rasが変異することが知られている発癌物質を用いて、rasマウスでの発癌に腸内フローラの修飾作用があるかどうかを検討した。
N-methyl-nitrosourea(MNU)を用いて、無菌(GF)rasマウス、マウスの基準フローラとなるE.coli、Lactobacilli、Clostridia、Bacteroidaceaeを投与して作出したex-GFマウス(ACマウス)、ならびにヒト糞便をGFマウスに経口投与して作出したヒトフローラマウス(HFマウス)での発癌率を比較した。
投与方法は、75mg/kg-b.w.をi.p1回投与して14週後に各臓器での癌の発生率をTG(-)の対象群と比較した。その結果、GF、AC、HFマウスいずれもTg(+)マウスで♂、♀とも100%の前胃部乳頭腫がみられたが、TG(-)マウスではGF♂で0%、♀で43%、AC♂、♀ともに0%、HF♂で0%、♀で14%となり、GFとHFマウスで同じような結果となった。胸腺腫瘍ではGFでTG(+)♀で57%となり他は1例のみ発癌がみられた。ACではTG(+)で60〜67%、TG(-)で0%であった。HFではTG(+)♀で75%であったが、他は0〜1例で発癌がみられたにとどまった。皮膚乳頭腫ではGFとAC、HFで大きな違いがみられ、GF TG(-)♀で1例検出されたたけだが、ACではTG(+)♀で80%、HFのTG(+)♂で80%、♀で25%、他にTG(-)では全て陰性であった。
以上の結果から、MNUは腸内フローラルの有無にかかわらず、TG(+)マウスで強い発癌性を示したが、皮膚乳頭腫ではむしろ腸内フローラの存在が発癌率を高める結果となった。

研究成果

• [文献書誌] Tamura,M., Hirayama,K. & Itoh,K: "Comparison of colonic bacterial enzymes in gnotobiotic mice monoassociated with different intestinal pacteria" Microbial Ecology in Health and Disease. 10(6). 287-294 (1996)
• [文献書誌] Suzuki,T., Itoh,K., Kaneko,T. & Suzuki,H.: "Inhibition of bacterial translocation from the gastrointestinal tract of mice by oral administration of a cnlture conclensate of Bifidobacterium longum" J.Vet.Med.Sci.59(8). 665-669 (1997)
• [文献書誌] Itoh,K. & Yanabe,M.: "Gnotobiology in laboratory animal production.Germfree Life and its Ramifications." XII ISG Pnblishing Committee,Shiozawa. 13-15 (1996)
• [文献書誌] Narushima,S., Itoh,K., Morita,T., Mitsuoka,T., Nakyata,H., Itoh,T., Hioki,K & Noama,T.: "Effect of in testinal bacteria on incidence of colorectal tumors indnced by 1,2-dimethylhydrazine in jection in transgenic mice carrying human c-Ha-ras genes.Germfree Life and its Ramifications" XII ISG Pnblishing Comittee,Shiozawa. 503-505 (1996)
• [文献書誌] 成島聖子,伊藤喜久治: "ノトバイオートマウスにおける腸内フローラ構成と胆汁酸代謝" 腸内細菌学雑誌. 11. 89-95 (1998)
• [文献書誌] Narushima,S., Itoh,K., Mitsuok,T., Nakyama,H., Itoh,T., Hioki,K. & Nomura,T.: "Effrct of monse lntestinal bacteria on incidence of colorectal tumors indnced by 1,2-dinethylhydrazine indection in gnotobiotic transgenic mice barboring human prototype c-Ha-ras genes" Exp.Animals. 47(2)(in press). (1998)