光起電型素子InGaAsの性能評価と他のタイプの素子との性能比較を行なった。一次元アレイ素子の実験室での評価および望遠鏡に取りつけた観測装置での評価までを行ない、二次元アレイの製作までは進まなかった。 [暗電流と効率の測定]まず、InGaAsの単素子検出器とTIA(インピーダンス変換型アンプ)とを用いて暗電流を測定し、200Kに冷却すると数百GΩまでインピーダンスが上昇することを見出した。つぎに、InGaAs16素子一次元アレイを用いて、暗電流の温度依存性を測定した。アンプの入力部のFETの漏れ電流の十分小さいものを選んでCTIA(電荷積分型アンプ)方式で、室温から95Kまでの暗電流を測定した。また、95Kでの効率を測定し、量子効率が半減するのは波長約1.55μmであり、このカットオフ波長が室温での値(波長1.7μm)に比べて短くなることを確認した。[望遠鏡での一次元素子の性能評価]InGaAsの128素子一次元アレイを口径50cmの望遠鏡に搭載し、光ファイバーおよびグレーティング分光器と組み合わせて波長分解能λ/Δλ〜5000の観測システムとした。これを用いて明るい星の1.3μm付近のスペクトルを取得し、地球大気の吸収線・天体に固有のpaβ吸収線のプロファイルを得た。[他素子との性能比較]素子数256×256のHgCdTeとInSb検出器を駆動する回路系を製作し、十分な速度と読み出しノイズの低さ(十数電子相当)を持っていることを確認した。また、256×256のHgCdTe検出器を用いた観測装置での観測の経験を重ね、素子に必要な性能を検討した。低温で動作させた場合、製作したInGaAsは少ない暗電流等のすぐれた特性を持ってはいるものの、大気の窓のHバンドの途中で量子効率が減少してしまう欠点があり、現状のままでは天文観測にとって好ましくないとの結論を得た。
|