研究概要 |
本研究は、成膜雰囲気の清浄化が薄膜成長過程に及ぼす影響の物理的起源を解明し、スパッタ成膜プロセスにおける薄膜微細構造の制御技術を確立することを目的としている。本年度は、新たに構築した極高真空対応のマルチスパッタシステムを用いて,スピンバルブ膜を構成するための二大要素技術、(1)強磁性層/反強磁性層積層膜の交換磁気異方性、ならびに、(2)強磁性層/非磁性層積層界面における伝導電子のスピン依存性散乱、に及ぼす成膜雰囲気清浄性の影響について基礎的な検討を行った。成膜雰囲気の清浄性は、主にスパッタチャンバーの到達真空度を10^<-11>Torr台(XCプロセス),10^<-7>Torr台(LGプロセス)の二種類とすることで変化させた。1. Ni-Fe/Mn-NiならびにNi-Fe/Mn.Ir積層膜を、膜厚構成を変化させて、XCならびにLGプロセス中で成膜を行い、積層膜の微細構造と交換磁気異方性との相関について検討を行った。その結果、成膜雰囲気の清浄化によって積層膜中の反強磁性粒子の結晶成長が促進され、熱擾乱が低減されるために、室温における交換磁気異方性の大きさが増大することを明らかとした。XCプロセスでは、最小50Åの反強磁性Mn-Ir層厚下においても、有効な交換結合磁界が得られることを明らかにした。 2. (Co 10Å/Cu 10Å)_<30>多層膜において、その磁気抵抗変化率(GMR比)は、チャンバーの到達真空度,P_bの関数として敏感に変化し、P_b>8×10^<-8>Torrの範囲ではP_bの低下に伴ってGMR比は増大し、室温でおよそ50%の値を示すが、P_b<8×10^<-8>Torrの範囲ではGMR比はわずかなP_bの低下に伴って急減に減少しP_b=3×10^<-8>Torrにおいて、GMR比はおよそ14%まで低下することを明らかにした。これは、成膜雰囲気の清浄化によって積層膜中の結晶粒成長が促進される結果、多層積層構造の平坦性が劣化するために、隣り合う磁性層磁化の反平行配列が実現されなくなったためと考えられた。
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