本研究では、高分子固体科学に新たなステップを築くために、特に、高分子の構造と物性との相関について、様々のテクニックを用いた研究を行なった。実験の面では、イメージングプレートを用いたX線構造解析システムを構築し、数多くの高分子について構造解析や力学物性測定を行なった。また、将来極めて重要となる計算機シミュレーションについても精力的に研究を行ない、極めて多数の原子から構成される高分子鎖を格子中に充填し、その集合状態、相転移挙動、バルクな性質のシミュレーションなどを、計算機に並列方式のテクニックを導入して試みた。遠い目標としては結晶領域、非晶領域の両方を含むバルクな試料の構造と物性のシミュレーションにあったが、現時点で利用できる計算機の能力では、結果として、そのような極めて複雑な構造についての物性評価にまでは至らなかった。しかし、その基本とも言うべき結晶領域の構造、物性、運動性などについては、かなり深いところまで検討することができ、バルクな試料に対する研究に対する確実な足がかりを得ることができた。具体的には、フッ化ビニリデン共重合体の強誘電相転移現象、ポリエチレンの分子構造、結晶構造および力学物性に及ぼす温度の効果、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾールの複雑な充填構造と力学物性との関わり及びそのシミュレーションなど、数多くの高分子について、その結晶領域における構造、相転移現象、物性の関わりを非常に詳しく解明できた。
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