現在までに、牛枝肉、健康牛の糞便、下痢症患者の糞便から、約100株の大腸菌O157を分離し、これらの菌株を用いて、食品中での大腸菌O157の増殖特性を検討した。大腸菌O157を接種した種々の野菜類の抽出液を室温で1日間放置した時、試験したすべての野菜抽出液中において大腸菌O157が増殖した。しかしながら、野菜抽出液を121℃で15分間加熱した場合、トマト抽出液中では大腸菌O157の細胞数が減少した。トマトの何らかの成分が加熱により抽出されたか、または加熱により構造変化を受けた物質が大腸菌O157の生存率に影響を与えたものと考えられた。この加熱したトマト抽出液中での大腸菌O157の生存率を経時的に測定したところ、保存3日目以降は細菌数が増加することが判明した。従って、大腸菌O157は、トマト域分による殺菌作用を受けるが、次第にその成分に対する耐性を獲得すると考えられる。種々の調味料では、食塩、しょ糖、食酢、醤油、ソース、ケッチャプに増殖抑制効果が見られたが、みりんには効果が見られなかった。ケチャップの増殖抑制効果は、トマト成分と食塩の両者の作用によるものと考えられた。各種香辛料の効果についても検討を行ったところ、一般に抗菌作用を有することが知られている香辛料は、大腸菌O157に対しても増殖抑制効果を示した。
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