研究概要 |
長期増強において,脳内グルタミン酸レセプターのうちNMDA(N-methyl-D-aspartate)レセプターの重要性が指摘されて以来,動物の学習・記憶に及ぼす各種のNMDAレセプター遮断薬や作動薬の効果が検討されてきた.しかし,それらの薬物を脳内の特定の部位に投与した研究はまだ少ない.昨年度は,空間記憶課題である放射状迷路学習課題の遂行にとって,海馬内のNMDAレセプターが重要なはたらきをすること,さらに,海馬NMDAレセプター内のグリシン調節部位が関係していることを報告した. 本年度は,空間記憶課題の遂行に関与すると考えられる別の脳部位である,線条体(尾状核・被殼)のNMDAレセプターの役割について検討した.被験体としてラットを用い,8方向放射状迷路課題の訓練をし,学習完成後線条体へのガイドカニューレ植え込み手術を行なった.回復後,マイクロシリンジポンプを用いて,競合的NMDAレセプター遮断薬のAP5(2-amino-5-phosphonopentanoicacid)または生理食塩液を線条体内投与した直後,放射状迷路課題の遂行を観察した.その結果,AP5の用量にかかわらず,放射状迷路行動(正選択反応)への明らかな影響は見られなかった.したがって,この課題の遂行における線条体のNMDAレセプターの関与は低く,脳内NMDAレセプターのうちでも海馬のNMDAレセプターが重要なはたらきをしているという仮説が,さらに強く支持された.
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