研究概要 |
近年,記憶や学習とNMDAレセプターの関連が示唆されているが,脳内の特定部位のNMDAレセプターの機能についての行動学的研究はまだ少ない.本研究では,放射状迷路学習課題を用い,NMDAレセプター拮抗薬や作動薬の脳内局所投与を行うことによって,空間記憶における脳内NMDAレセプターの関与について検討した. まず,海馬のNMDAレセプターが放射状迷路行動において果たす役割を調べるため,あらかじめ放射状迷路課題を訓練したラットを用いて,NMDAレセプター拮抗薬の背側海馬投与の効果を検討したところ,競合的拮抗薬(AP5),非競合的拮抗薬(MK-801)のいずれの投与によっても,ラットの正しい選択反応が顕著に阻害された.一方,AP5の線条体投与は,この課題の遂行には明らかな影響を示さなかった.したがって,海馬のNMDAレセプターが空間記憶に重要な役割を果たしていることが示唆された. NMDAレセプターは,いくつかのサブコンポーネントからなる複合体である,海馬内のグリシン調節部位に記憶調節機能があるか調べるために,あらかじめNMDAレセプター拮抗薬MK-801の末梢投与によって記憶障害を生じた被験体で,グリシン部位の作動薬D-cycloserine(DCS)を海馬投与し,改善効果が見られるか検討した.その結果,MK-801による遂行障害に対し,DCS海馬投与を組み合わせると障害の程度は有意に軽減した.したがって,グリシン部位作動薬によるNMDAレセプター機能の亢進が,放射状迷路行動を改善したと考えられる.以上のように,空間記憶課題の遂行に,海馬NMDAレセプター内のグリシン調節部位が関係していることが示唆された.
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