研究概要 |
働きかけに対する反応行動観察上で把握することができないために,援助の手掛かりを得ることが困難な重度脳障害事例を対象にして,心拍変動情報を援助者へ即時伝達するシステムを臨床場面に実践的に導入し,コミュニケーション機能の形成を中心とした発達援助における妥当性と有効性を検討し,より実際的なシステムを構築するという本研究の目的の下に,音信合に変換された心拍変動の弁別と情報の判定に関する検討[課題I]と,心拍情報即時伝達システムの妥当性と有効性に関する臨床的検討[課題II]を試みた. [課題I]磁気記録された心電図データをサンプルとして検討した結果,安静覚醒状態での心拍水準をベースレベルとして1000Hz純音に設定し,そのレベル(安静覚醒時平均心拍値)±1SD,2SDの変化分に対応させて純音信号を250Hzの幅で上下に5段階周波数を変化させて聴取する条件が,時々刻々と推移する心拍変動を最も明確に弁別でき,音信号によって意味のある変化を判定できる最適スライスレベルであることが確認された. [課題II]障害類型と年齢が異なる2人を対象に,従来のように行動観察だけを手掛かりとする場合(A)と,本システムにより心拍変動情報の即時伝送を受ける場合(B)のふたつの条件下において,援助者と対象者のかかわり場面を映像・音響記録した.半年間の追跡的データを比較分析した結果,対象事例の覚醒水準の把握,働きかけの内容の選択と実施のタイミングなどに関して,本システムによる心拍変動の即時伝送情報が有効な手がかりになることが,養育者の自己評定と対象者の変化の両面から確認された. 以上の知見が得られたことにより,本システムの実践的応用と臨床的導入への具体的見通しが明らかになった.また,今後呼吸性変動(RSA)のモニタリングを加えることにより,さらに有用性を高めることが可能である.
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