本研究の目的は、変化する現代家族のあり方を明らかにするために、家族についての言説の研究を実証的かつ多角的に進めることにあった。家族言説の分析という新しい手法を用いたことに加えて、富山県といういわゆる大都市圏ではない地域を研究対象に選んだことが、本研究のユニークさを高めているといえよう。 調査研究の経緯は次のとおりである。まず平成9(1997)年度に共同で質問紙調査を行い、翌10(1998)年度にかけて、入力や質問項目全体の分析の作業を行った。この時期に富山大学人文学部の外国人研究者であったノースは、質問紙調査と平行して県内の共働きの家族を対象に聞き取り調査と参与観察を行い、中河は、質問紙調査関連の作業が一段落した段階で、県内の自助グループの参与観察と聞き取り調査を開始した。 最終的な研究成果は、以下の3本の論文にまとめた。 佐藤の「質問紙調査の自由回答項目における『家族言説』」は、上記の質問紙調査における自由回答項目の回答を独自のプログラム・ソフトで解析し、家族についての言語的資源(エスノメソドロジー流にいえば文化的リソース)の構造を解明する。中河の「地方都市の自助グループ活動における家族をめぐる語り」は、トラブルに対処しようとする自助グループや援助団体の具体的な活動の中で、家族がどのような形で描かれ、家族と当該のトラブルの関係がどのように描かれるかを示している。最後に、スコットの「現代日本における"父親であること"の文脈として生きられた歴史」では、性別役割分業や男らしさ/女らしさについての夫婦の態度や言説が、"生きられた歴史(living histry)"という一種の正当化装置によって裏付けられていることが示される。以上のようにつながりを保ちつつ多角的なアプローチによる探求の成果を通じて、私たちは、家族言説研究という家族社会学が耕すべき新たな沃土の生産性の一端を明らかにすることができたと考える。
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