本年は初年度にあたり、3調査地(宮崎県高城町、新潟県津南町、茨城県八郷町)の予備調査を行い、ライフコース論によって農家と集落の変貌を解明するための戦略的なテーマを定めた。第1に世代交代を挙げる。農家と集落の変貌には、昭和ヒトケタ世代の退場と若年層の台頭という世代交代が強く影響していた。親世代のライフコースは子世代のライフコースの選択を待って、その後に決定されるようになった。ライフコース間の規定の方向は親から子へではなく子から親へと逆転した。第2に農家女性がある。特に高城町では家族協定という新しい家族規範の登場が女性の地位を大きく変えた。地域外から婚入する農家女性も多く、地域社会のリーダーになる例が少なくない。第3に農業への新規参入者がいる。新規参入者はいずれの調査地にもみられ、定着の過程にあるものの変貌の1要因として無視できない。第4に親世代のライフコースは兼業あるいは地域の労働市場の展開と大きく関わっていた。農家と集落の変貌はこれまで兼業化や都市化によってほぼ説明されてきた。このような動向が頂点に達したのが現状である。第5に併存する多様なライフコース間の関係が究明されなければならない。昭和ヒトケタを主とする親世代の背後からは、若年世代、農家女性、新規参入者などの様々なタイプの新たなライフコースの持ち主が登場した。異なるライフコースの主体間には、対立、協力、調整が見られる。これが現在のダイナミックな農家や集落の動きを理解する要となる。第6に現時点における多様なライフコースの併存は家族史や地域史の延長上に解釈されなければならない。世代交代や世代継承は単なる繰り返しではなく変貌を伴うものとなった。今後はこれらのサブテーマにそって、ライフコースを基礎におき、それぞれ具体的な調査項目へと降ろしていく予定である。
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