昨年度と同じ調査地(茨城県八郷町小幡地区、新潟県津南町赤沢地区、宮崎県高城町有水地区)において、農家男性のライフコースの聞き取り調査を行った。20〜30歳代、40〜50歳代、60歳代以降と分けて、年齢によるライフコースの変化に着目した。そして男性のライフコースを、昨年実施した女性のライフコースと比較した。第1に、男性のライフコースの基本は職業歴である。女性のライフコースが出生地・結婚・出産など、家族要因と深く関係するのとは、対照的である。男性は職業歴を中心に、女性は家族歴を中心に、ライフコースが構成されている。第2に、職業歴のなかでも農外就業は、現住地からの転出入を左右し、大きな影響を与える。定年退職者の帰農=帰郷が少なくなかった。このような意味で男性のライフコースには、農=郷という引力の中心がある。それが男性のライフコースを全体として律する。第3に、このような男性のライフコースは、他方で社会経済の影響を直接的にまた容易に受ける。戦争や経済の好不況によって、男性のライフコースは翻弄される。農家男性のライフコースはこれら2つの中心、すなわち「農=郷」と「経済=社会」の間で動いている(農家男性のライフコースの2重規定)。出稼ぎや定年帰農はその好例である。近年になるほど、後者の規定力が強くなってきた。第4に、それは地域差となっても現れれる。たとえば雪国の新潟県では、昔から冬の出稼ぎが慣例となっており、それが今でも男性のライフコースに影響している。第5に、このような男性のライフコースに比べると、農家女性のライフコースは家族歴を軸にし、それゆえ家族規範の変化がライフコースを大きく左右する。男性の経済=社会に対比されよう。
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