本研究は、農村の社会変動と農家の家族変動を、それらを構成する最小単位である個人のライフコースからみようとした。それらの変動はライフコース間の協調・対立・妥協によって説明されよう。第1に特に顕著な対立がみられるのは、昭和ヒトケタ男性と女性の間においてである。前者は現在70歳前後で戦後農業に担い手であり、今は農協組合長などの役職につき農村権力構造の頂点にいる。女性の地位向上と対立する世代である。第2に対立するライフコース間の社会的な調停として現れたのが家族経営協定である。これは行政の主導によって、宮崎県高城町に多くみられた。第3にこれらの背後にあるのは農家女性のライフコースの変化である。女性のライフコースは男性に比べると、結婚によって大きく左右される。近年に増えたのが、非農家出身・農業経験なし・恋愛結婚というものである。これは昭和ヒトケタ世代の女性とは対極的になる。農家に生まれ、農業を手伝い、見合い結婚で農家に嫁ぐというもので、家制度と農業の枠外へと出た経験をもたない。第4に非農的な体験を積み重ねた農家女性はこれまでの世代と異なり、直売店を持つなど積極的に外に出るようになった。第5にライフコース間の問題として親世代と子世代の関係があげられる。親のライフコースがそのまま子のライフコースにならないというのが現代である。むしろライフコース間の影響力は子が主体となってきた。子が農業を継承するかどうかによって、親のライフコースが変わるからである。第6にもっとも大きなライフコース間の相違は、非農家出身の新規就農者との間に認められよう。行政の援助があるとはいえ、新規就農者のライフコースは経済的には未だ安定していない。なかには自然農法のグループもいる。このように現代の農村は多様なライフコースの持ち主が構成する社会となり、それらの間の対立や共同によって変動している。
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