研究概要 |
研究期間の最終年度である本年度は,昨年に引き続き臨床的意思決定に関する意図的で特色のある教育を実施している大学や専門学校を訪問・調査すると共に,これまでの調査・分析に基づき臨床的意志決定過程の教育モデルの検討を行った。 訪問・調査は数ヶ所の大学,短大,専門学校に行い,その他電話等により補足調査を行った。またこれら施設の臨床実習施設指導者の一部にも実習場面の記録及び聞き取りによる調査等を行った。結果は,昨年度の報告とほぼ同様にカリキュラム上の科目内で紙上患者や模擬患者による実習や演習により意思決定過程を強調している場合や臨床への関与を早期に行うこと等であり,指定規則の改正による特別な変化はまだ認められなかった。臨床実習指導者への調査では,特別な指導特徴や傾向は認められなかったが,これは対象となる患者及び指導する学生の知識や技術レベルが異なる等のためと考えられる。意思決定過程を強調するというよりも,指示箋やプロトコルを基準として思考するというところにまとめられる。医療現場での臨床実習がほとんどであり,医師の指示のもとという枠内ということは影響していると考える。 これまでの調査・分析から,理学療法教育における臨床的意思決定過程の教育モデルの確立のために現況の問題点を以下に列記する。 学内教育において,(1)臨床的意志決定過程の教育を強調しているというよりも理学療法の専門的基礎知識と技術の基本事項に学習・修得の重点が置かれている。(2)学内科目での紙上患者や模擬患者の設定では典型的な症例呈示により,一定のモデルが示されるが,それはまた一定のレシピとしての理解に留まり,臨床の現場で求められるケースバイケースの意志決定過程が,不十分となりやすい。(3)理学療法評価時に得られる個々の評価情報の違いが,回復目標の到達レベルを左右することを理解し総合的に解釈することに切実感がなく不慣れなままになりやすい。 臨床実習において,(1)意志決定過程に関する指導方法が,ほとんどの場合あまり強調されておらず,さらに指導者ごとあるいは対象となる患者で意思決定過程が異なり,経験的体験型教育方法を用いている。(2)意思決定過程に関しては,実習地での指導者が,担当症例の評価からケースカンファレンスまでを通して,その過程を学生に提示しているが,限られた実習期間内において経験値を高めることが困難である。(4)2期ないし3期の臨床実習を行っている学校養成施設が主であるが,種々の疾患を担当することが経験値を高めることにつながり,養成校側からも推奨している傾向にある。ただし,同一疾患でありながら,そその臨床実習の指導者が異なると,障害内容を考慮した意思決定過程の学習の積み重ねを経験しにくい状況がある。 以上の観点から,臨床的意志決定過程の教育モデルは必ずしもある型を持つものではないことが伺える。しかし,今後のさらなる調査分析や他の観点からの教育などによりモデル提示は可能となると考える。
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