研究概要 |
本研究の目的は,理学療法教育における臨床的意思決定過程に関する教育の実施実態を調査し,その現状と問題点,今後の課題を明らかにすることと供に,この領域の教育の改善発展のための教育モデルを提示することである。 平成9年度に,全国97の理学療法士学校養成施設に臨床的意思決定過程の教育の実施状況について質問紙による郵送調査を行い,40施設から回答を得た.殆どの施設では,理学療法評価・診断の科目の中で総論的に導入しているが,問題点の抽出,理学療法目標,治療プログラム設定等の意志決定過程を意識あるいは強調し教育している施設は短大を含む大学で数施設,専門学校で20余施設であった.これら20余施設中15施設に対し,平成9から11年度に,担当教官及びこれら施設で臨床実習指導を依頼している臨床実習指導者に対し,具体的な教育目標や実施方法,特徴等について,面接や電話による調査を行った. 調査結果を集約すると,学内教育では,(1)臨床への早期暴露による臨床への意識,ひいては臨床的意志決定過程への意識を高めるカリキュラム.(2)紙上患者や模擬的患者を設定しての理学療法評価〜治療実習等の臨床実習に継続しやすい実習をより多く導入する等がみられた.しかし,意志決定過程の理論化やその検証等は行っていなかった.臨床実習教育については実習場面を撮影し,後で撮影した場面をみながら学生と臨床実習指導者にどのように考えて実施していたかという民族学的手法による調査も一部実施したが,調査数が限定され一般化はできない.結果は,意志決定過程を強調した指導は殆ど無く,指導者の経験による体験的指導が主であり,症例の経験を次の事例に生かすという学習の蓄積の難しい環境が多かった. これらの調査結果から,学内教育及び臨床実習教育ともに臨床的意志決定過程の教育モデルはなく,今後この領域の教育の必要性,特に教育モデルの提示やその検証が課題であることが明らかとなった.
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