研究課題
今年度は主として研究分担者の専門に応じた図書の収集と分析を行い、討議を経てその成果の一部を執筆・公表した。19世紀英米においては、開発・支配すべき人類の未開資産としての「自然」という基本的イメジのもとで、なおかつそこに、当の開発支配の文明を批判する根拠として、原始共産主義的な自然状態やエデンの園的楽園のイメジが付託されて、「自然」は二局分解的な両義性を帯びることになる。そうした二局分解を統合する見地の1つとして、いわゆるオリエンタリズム的な「自然」賞賛のイデオロギーが成立し、そこでは開発支配の後ろめたさをあがなう心理規制として、失われた「自然」状態への思慕が繰り返されてきた。だが、こうしたオリエンタリズムにたいする批判もまた、自然を根拠としておこなわれてきた。というのもその種の批判は、アフリカ、ポリネシア、アメリカ先住民などの、西洋文明になじまない、「自然」としての文明の声に耳を傾ける努力をしばしば前提としていたからである。またいっぽう、ホッブスの「自然状態」論をかえりみるまでもなく、開発支配に向かう資本主義的エネルギーそれ自体もまた、人間の「自然」の名の下に正当化されつづけてきた。こうして「自然」は、19世紀のさまざまな思想の衝突において、覇権の象徴として占有をめざすべく争奪戦が繰り広げられてきた表象概念だったと理解される。そうした事情をふまえながら、今後共同研究は、西洋文明が「自然」を覇権の象徴と見なすようになった経緯そのものを、産業革命下の自然喪失という基本的文脈のもとで、人心に即して解明しなければならないと考えている。
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