研究概要 |
本年度は,昨年度に引き続いて文献・資料の検索・収集を進めた。この一年間でも武力行使の例又はその可能性は増加している。とりわけ旧ユーゴ諸国における民族対立に基づく武力衝突と,それを抑えようとする国連平和維持活動及びNATOを中心とした多国籍軍の活動は,現代における武力不行使原則の実行性の希薄さと,ひいてはその存在に対する疑問を生じるであろう。 こうした現状を前にしつつ,本研究の担当者は各自が固有の問題意識を持ちつつ,この課題での考察枠組の外縁を広げる形で研究を行った。西井は,核兵器の使用を伴う武力行使が現代国際法において禁止されているか,また地球環境への影響の大きな核使用の合法性の判断を下した国際司法裁判所勧告的意見への批判的考察を行った。安藤は,所属機関を変わるという研究条件の変動にもかかわらず,武カ行使の違法性と国家責任の問題に関心を示し,その中で「過失」論を詳細かつ実証的に検討して,最近のこの分野の議論の問題点を掘り起こした。杉原は,昨年に引き続いて,武力行使を含む紛争の政治的側面に注目して,司法的解決の広い射程を明確にすべく,国際司法裁判所の判例を中心に分析・検討した。位田は,武力不行使原則の法規範としての存在そのものに疑問を抱きつつ,現代国際法における法規範のプロセスを洗い直すことによって,同原則の位置を再確認しようとした。 このように本年度はいずれもやや武力行使自体からは少し離れて,もう一度現代国際法という外枠を理論的に固める作業であったと言える。この作業は,最終年度における研究のまとめの準備としても非常に有用であった。
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