研究課題
本年度は、科学研究費補助金交付の最終年度であるので、研究範囲の拡大よりも研究の深化充実に努めるのがより効果的であると考え、本年度当初計画で予定していた経済社会理事会による1235手続の検討を断念し、国際人権規約の国家報告制度と個人通報制度の検討に集中することとした。国家報告審査が各締約国に及ぼす影響については、締約国がかかえる個別事情に大きな差異があるため、締約国一般について全般的な評価を下すことがきわめて困難であり、各締約国毎の個別評価にならざるを得ないことが明らかになった。他方、規約人権委員会における審査の手続と方法の側面を見ると、従来の経験にてらして近年著しい改善が計られ、効率的な審査が進められていること、特に委員会が報告審査後に出す「結論的見解」(Concluding Observations)の提案と勧告がきわめて詳細で具体的になっていること、次回報告の中でその提案と勧告がどのように扱われたか説明するよう求められるため、締約国にとって大きな圧力となっていること、などが明らかとなった。また、個人通報の審査を通じて、人権委員会による規約条項の内容が次第に明確化されてきている。通報は具体的な人権侵害に関するものであるから、それらの個別具体的な事例との関連で規約の保障する人権の内容が明確にされる意義はきわめて大である。更に、委員会はそれらの具体的事例をふまえて各条項に関する一般的意見(general comment)を出しているので、両者を総合的に考察する必要のあることが明らかとなった。その上、通報を許容できるかできないかの判断基準も、具体的事例に即して一層掘り下げて検討する必要があることも明らかとなった。これまでの検討を通じて、常に行き当たった問題は、規約人権委員会の法的地位付けと権限、その意見や見解の効力、締約国との関係などである。規約に規定がない仮措置がどのような効力を持つのかは、他の裁判所(例えば、ヨーロッパ人権委員会)との比較において見ていく必要があろう。人権擁護の大義名分と、条約により設立された機関である人権委員会が有する限界や制約とを、どのように調和させるべきかという大きな課題が残されている。