研究課題
基盤研究(B)
研究期間を通じて、規約人権委員会の29各国の国家報告審査を検討し、個人通報事例については自由権規約実体条文につき11か条及び選択議定書の受理可能性に関する5つの問題を検討することができた。前後の検討を含めると国家報告審査の検討は世界の各地域のほぼ50カ国に及び、規約実体条文についてはほぼ3分の2以上を検討した。国家報告及び個人通報事例の膨大さからして、このような総合的研究は科学研究費の補助による集団的研究以外にはなしえることは不可能であった。本研究を通じて、国家報告の検討からは、規約人権委員会の機能が規約起草時に意図されていたものから大きく進展してきており、国家が提出するコア・ドキュメントと定期報告の審査内容が法令の状況から実態分析へと踏み込んだ内容となり、個別国家に対するコンクルーデイング・オブザーベーションを踏まえた報告書づくりをする国も徐々にではあるが出始めていること、規約の国内編入及び適用の仕方は変型方式・包括的受容方式の国では異なるが、従来言われてきたことと異なり包括受容方式の国でも受容の仕方は複雑多様であること、先進国、大きな変革期にある旧社会主義国、イスラム諸国、中南米・カリブ海諸国、サハラ以南のアフリカ諸国など地域別に規約上の義務の理解の仕方、国内実施の仕方に相当隔たりがあり、先進国では大規模な人権侵害と言うよりは平等条項違反など国家の事実上・法上の制度に係わるさまざまな区別の内容が問題にされてきていること、日本についても公共の福祉をはじめ規約の規定と憲法上の人権の構造との間にずれがあること、そのずれのいくつかは制度全体にわたる検討が必要なことが明らかになった。個人通報例もいわゆる各条文につき確立した先例といえるものが形成されてきていることが確認され、本研究を通じて日本の裁判所の判例にも影響しうる規約の新たな解釈・適用の動向を多数確認することができた。世界の各地域の主要国を全体として見渡しそれを各条文毎の膨大な通報事例と結合して検討した本研究は、自由権規約の日本における総合研究に重要な貢献をなすものと考える。本報告書は、これらの研究成果のうち、研究参加者の討議を通じて、とくに議論となったものを中心に編集している。
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