研究概要 |
本年は研究の最終年度であり,昨年度に引き続き,司法制度の成立過程研究グループ,裁判手続きの定着過程研究グループ,財産関係,身分関係の実体法研究グループ,そして史料保存方法グループがそれぞれ研究を行いつつ,6月,12月,2月に行われた3回の会合において報告と討論を行うとともに、全体の研究をまとめていく作業を行った。 本年度の各研究グループの研究課題に即して言えば,司法制度グループにおいては,江戸時代からの裁判制度を継承しつつ,ヨーロッパ諸国特にフランス,ドイツ等の近代的な裁判制度の影響を受け発展していく過程が,当時の個別の判決の検討からかなり明らかにされてきたものと思われる。裁判手続グループは,司法制度グループと共同し,例えば,明治初年における,原告・被告双方の申立てを摘記した後,遂条的に判決内容を記したスタイルのようなものから,現在のような,主文と事実・理由を区別する書き方に至る過程を個別の判決文の調査から研究する作業を行ってきた。 財産法グループ・身分法グループについては,土地・入会・小作・売買・貸金・請負・婚姻・養子縁組・相続等の裁判に関し,その判決の根拠となっている「条理」を具体的な判決に即して明らかにできたできたものと思われる。特に,判決を通して明治期の社会状況や庶民の生活状況の一端を知ることが出来,また逆に,そのような状況の変遷が判決に与える影響等を知ることができた。 史料保存グループは,平成11年6月23日に成立した「国立公文書館法」により,現在国立大学等で保管されている民事判決原本が国立公文書館に移管されることになるが,学術目的の利用と関係者や遺族のプライバシー保護の問題など,法律が実際に運用されるまでに対応しなければならない問題は多く,また,現在,国際日本文化研究センターで進められている民事判決原本データベース(平成11年5月現在100,333件)のあり方など,諸外国の例なども比較検討しながら,一定の成果を出せたもと考えている。 現在,全体的には,裁判所から全国の国立10大学に移管,保存されている明治期の民事判決原本の整理が進んだこともあり,利用できる研究史料の数も増え,その研究成果が徐々にあらわれているところである。詳細な調査・研究は,今後,これらの民事判決原本が全面的にかつ整理された状態で閲覧できる状態が訪れるのを待つよりないが,本研究の範囲内においても,十分な成果が出せたものと思われる。
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