研究概要 |
リーマン多様体は、リーマン距離をもつ距離空間であると同時にリーマン測度とエネルギー形式によって定まる正則ディリクレ空間である。研究代表者は久村憲裕氏(静岡大理学部)との共同研究で、リーマン多様体の熱核を用いてスペクトル収束の概念を導入し、いくつかの基本的事実を示した。さらに小倉幸雄氏(佐賀大理工学部)とも共同して、確率論的視点からも研究を行った。スペクトル距離収束は、点を時間変数を加えての熱流の「ループ」とみなして実現され、ソボレフ、ポアンカレ、ハルナック不等式などの解析的不等式が重要な役割を果たす。リーマン多様体の極限に現れる正則ディクレ空間の例として、一般には拡散型ではなく、不連続な径路に測度を持つジャンプ型のものが構成できる。今年度の研究において,次のことを明らかにした:放物型ハルナック不等式の一様成立条件の下に,(i)極限空間の熱核,測度、距離(リーマン距離の極限としての内在的距離)は密接に関連しており,ガウス型評価が成り立つ.とくに距離空間としての極限と位相的には一致する.さらに極限のディリクレ形式は拡散型である.(ii)収束列の体積の非退化条件を仮定すると,熱核と距離の間にバラダンタイプの漸近公式が成立する.(iii)熱核の視点からのリー群の作用の連続性が保証される.(iv)極限空間が熱核の視点から等質的であれば,極限は実際等質リーマン多様体である。 その他の成果として,極小曲面の共形変形,特異楕円型方程式の解の構造と変形における解析的不等式の役割,リッチ曲率の役割の多様体の幾何解析における役割,接続計量と磁場をもつシュレ-ジンガー作用素との関連(例えば,スペクトル収束の視点からのトンネル現象の考察)等に関して,いくつかの新しい知見を得た.
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