非接触型原子間力顕微鏡(ncAFM)によって、実験的には明瞭な表面原子像が観察され、周波数シフトと探針高の関係曲線(フォース分光曲線)は表面上の原子種や結合状態を反映した原子尺度の依存性を示す。本研究では非接触原子間力顕微鏡像とフォース分光曲線のメカニズムの理論的解明を行い、実験データに隠された物理現象の定量解析法を開発することをめざした。そのためカンチレバーの振動が探針・表面間の非線形な相互作用によって受ける影響、両者に働く力と探針上でのその分布、種々の不可逆原子過程による散逸などを明らかにした。第一原理計算から探針・表面相互作用力を計算し、これを共鳴周波数シフトに変換して非接触原子間力顕微鏡像を再現するための理論シミュレーション法を開発した。さらに、要請される大規模計算を効率化するために、2次元フーリエ変換法を開発した。これらを実際の系に適用する研究を、Si(111)√3×√3-Ag表面に適用して実験と比較し、実験像を再現した。一方、非接触走査散逸力顕微鏡(ncDFM)の理論を研究し、この実験法が表面のナノ力学的な性質、例えばを表面のやや内部にある空洞の画像化などを検出するため有効なことを確認した。また散逸量を支配する原子揺らぎが原子の質量で異なることを利用して、走査トンネル顕微鏡では不可能であった、表面の原子種の同定の可能性にを調べている。さらに探針で誘導される表面構造の不可逆変化やその探針振動のエネルギー散逸への影響を調べた。
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