研究概要 |
強い電子相関を示す物質のフェルミ準位近傍の微細な電子状態を知る手段として光のエネルギーが極微小な赤外線を用いた赤外分光実験が有用である。本研究の目的は、実験に用いる事が出来る強い電子相関を示す物質の多くが多結晶状態である現状を考え、その状態でもその物質が僅かでも良質な表面を持つ場合に赤外分光実験が可能な赤外顕微分光法を初めて適用してその電子構造の詳細な情報を得ようとするものである。 本研究により微結晶結晶表面でも赤外スペクトルが測定可能な赤外顕微鏡(ドイツ、Bruker社製A590/6v)を導入し、赤外顕微分光実験が可能な装置を建設した。 先ず、赤外域の吸収端で相当大きな吸収係数を持つためその吸収スペクトルを測定するには結晶を薄片に削る必要が有り、従ってその試料の大きさが0.5mm角以内の大きさに制限されるTmTe結晶について透過測定を行ない、エネルギーギャップが375meV程度であり,その吸収端には励起子構造と見られる微細な構造が現れることを見出した。これは顕微鏡学的観察を行なうことによって初めて可能になった実験である。次に、電子相関により温度環境を変わると高温での金属的性質から低温での絶縁体的性質を示す(「金属-非金属転移」)YbB_<12>の電子構造を知るために赤外反射率スペクトルの非磁性元素Luの濃度依存性の顕微鏡学的観察を行ない、低温で形成されたエネルギーギャップがLu混入と共につぶれて行く様子を詳しく観察し、その電子構造の変化を明らかにすることに成功した。 この様に、本研究により導入した赤外顕微鏡は強い電子相関を持つ物質についての電子状態の情報を得る赤外分光法において非常に有用な手段であることが証明出来た。
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