今年度は11月1日付けで分子科学研究所より東京大学物性研究所に移動があり、特に移動後は研究を継続発展させるための準備を行っている。分子研における研究では、すでに報告したように、レーザー加熱装置を光電子顕微鏡装置に組み込む作業に引き続いて、サンプルの温度を低温(約33K)にすることが可能なサンプルマニピュレーター(クライオスタット)を製作した。両者を組み合わせることで、33Kから1500Kを超える温度での、光電子スペクトルの測定が行えるほか、表面のクリーニングなども行えるようになった。温度によって価数が変わる物質として着目されている、EuNi2(Sil-xGex)2について、極低温(33K)、低温(83K)、室温(300K)で光電子分光測定を行い、電子状態の温度変化を観測し、各温度での価数の評価と共に、スペクトルの光エネルギー依存性など、理論、実験の双方から検討を行った。成果については、第12回真空紫外線物理国際会議で発表したほか、物理学会でも報告を行った。現在投稿論文として原稿を執筆中である。また、Si(lll)表面をレーザー加熱して7x7清浄表面を得た後、実際に温度変化に伴う光電子スペクトルの変化を観測した。表面に特有の電子状態が温度とともに変化するほか、レーザーの光によって、表面光電位が誘起されて、スペクトル全体がシフトし、さらに高温になると、電気伝導度があがり、表面光電位の降下によって、シフトしたスペクトルが再び戻るという興味深い現象が観測された。又、p型、n型でその振る舞いが違うことを見い出した。現在この現象のさらに詳しい解釈を試みており、3月の物理学会に於いて報告予定である。又物性研では、より位置分解能をあげた光電子顕微鏡装置を立ち上げており、この装置にもレーザー加熱装置を取り付けられるように準備をすすめている。次年度は物性研の装置で実験を開始するほか、分子研の装置も共同利用で使用することで、測定の対象をいろいろ広げて研究の展開をはかる予定である。
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