研究概要 |
A_<1-X>BMnO_3(A=La,Pr,...,B=Sr,Ca,)で表されるペロフスカイト型Mn酸化物及びその同族物質は、キャリアー濃度xを変化させることにより、A型(層状)反強磁性絶縁相、強磁性金属相、A型反強磁性金属相等の多彩な磁気構造が実現する。これらMn酸化物の電子物性を支配するのはMnイオンにおける3d軌道の電子である。5つの3d軌道は周囲の酸素イオンによる結晶場のため2重縮退したe_g軌道と3重縮退したt_<2g>軌道に分裂し、強いフント結合のためにMn^<3+>の電子配置は(t_<2g>)^3(e_g)^1となる。このためe_g軌道の電子は2つの軌道のどちらに入るかという軌道の自由度を持つ。この軌道の自由度と電荷並びにスピンの自由度との協力や競争によりMn酸化物の電子の物性が支配されていると考えられ、これを電荷・スピン・軌道複合物性と呼ぶ。本研究の目的はMn酸化物で見られる特異な現象を電荷・スピン・軌道複合物性という立場から理解することである。本年度は特に以下の2点を取り上げた。(1)3次元ペロフスカイト型Mn酸化物における多彩な磁気構造と軌道構造との関係、及び(2)その発展として後述の層状Mn酸化物における特異な圧力効果。 上記のことを理論的に解析するためにその低エネルギー励起を記述する有効ハミルトニアンを導出した。有効ハミルトニアンに対して平均場近似を適用することで、3次元Mn酸化物の磁気構造と軌道構造を調べた。そして、軌道の自由度が存在することにより、系がキャリアー濃度の多い領域と少ない領域とに分かれる相分離現象を起こすことを見出した。 次に上記の研究を発展させることで、層状Mn酸化物La_<2-2X>Sr_<1+2×>Mn_2O_7(x=0.3)における特異な圧力効果を解析した。この物質に静水圧を印加することで、低温における3次元的な金属状態の出現が抑制されることが実験により報告されている。この現象は圧力により軌道配列が変化することによる現象であることを見出した。すなわち、圧力により強磁性がd(x^2-y^2)軌道配列を伴ったA型(層状)反強磁性相に置き代わる。このような軌道配列では電子のc軌道方向への飛び移りが禁止されるために、系の伝導や磁性は2次元的となる。この解析結果から、実験により得られている圧力印加による磁性と伝導の次元性の変化は、軌道構造の変化に起因するものと解釈できる。
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