研究概要 |
本研究は,有機導体の低次元電子系の特徴を解明するため,一次元電子系の基底状態のひとつとされる密度波状態の構造,ダイナミクスの解明を目的とするものである。具体的には,スピン密度波と電荷密度波の競合または共存の関係という未到の問題を解明することを主軸にすえながら,密度波状態における密度波そのものの挙動と,熱励起されたキャリア,あるいは残存フェルミ面を持つ電子系の構造とダイナミクスに関する詳細な研究,及び新たな電子系の探索研究を行なった。 特に本年度では,前年度測定に成功した(TMTSF)_2X系塩の低温X線散漫散乱の実験結果に関する詳細な解析,及び,密度波の競合・共存がどのような電子系で可能なのかを調べるため,新しい物質系への拡張・探索の試みを行った。まず,擬一次元伝導体(TMTSF)_2PF_6(以下PF6塩),及び(TMTSF)_2AsF_6(AsF6塩)のX線散乱の実験に関しては,1.6Kの低温まで測定を広げることに成功した。特に,本測定によってスピン密度波相に共存した2k_F,及び4k_F周期を持つ電荷密度波の振舞を調べ,その結果,PF6塩では,4Kから12K(スピン密度波相転移温度)の温度範囲では電荷密度波が観測されるものの,3-4K以下で電荷密度波は消失するという事実が明らかとなり,これらの重要な実験結果を解釈する上での理論的な検討をいくつか行った。 さらに,密度波の共存・競合の問題を考える上で,多彩な電子系を調べることが必要との認識から,(TMTSF)_2X系塩とは異なる,ドナー・アクセプター型電荷移動錯体系・(BETS)_2(Cl_2TNQ)を見出し,この系における超伝導相に近接した絶縁体相の存在を確認した。特にこの絶縁体相における磁気的挙動から,この絶縁体相がスピン密度波相である可能性が高いとの実験結果が得られ,全く新しい系での密度波の共存・競合を研究するための基礎が築かれた。
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