研究概要 |
本研究ではブリルアン散乱を用いて、様々な磁性体単結晶中に熱励起されたスピン波の分光測定を行ない、磁性研究におけるブリルアン散乱の有用性を確立することを目的とする。平成9年度は、強磁性EuS単結晶の磁気相転移研究への適用に加えて、Fe/Au単結晶人工格子膜のスピン波測定を行なった。 EuS単結晶は〜16Kで常磁性相から強磁性相へ典型的な2次相転移を行なう。転移温度近傍におけるスピン波ピーク幅の異常増大と磁化の減少による振動数のソフト化を観測することにより、ブリルアン散乱による磁気相転移研究の突破口を開くことを目的とした。ブリッジマン法により育成された単結晶から劈開により得られた試料(〜1.32×0.84×0.15mm^3)を用いて、我々は7Kから300Kまでの温度範囲で磁気散乱を観測することに成功した。観測された磁気散乱は、強磁性相ではコヒーレントなスピン波励起からの散乱であるが、常磁性相では磁場誘起のインコヒーレントな常磁性散乱である。転移温度の約20倍付近の温度でも磁気散乱が観測されたことは、この物質では光と磁気の結合が極めて強いことを意味している。転移温度近傍でピーク幅の異常増大が観測されたものの、振動数にはソフト化が認められなかった。この原因として、我々はレーザー光とスピン波の相互作用が生じる表皮層内における反磁場分布を考えている。この点を明らかにするため、試料内部で均一な反磁場分布が期待でき、かつ類似の磁気相転移を示すEuO単結晶薄膜について、測定を行なう準備を進めている。 MBE法で作成されたFe/Au単結晶人工格子膜についても測定を行なった。この研究の目的は、Au層を介在としてFe層間に働く交換相互作用を定量的に決定することである。各金属層の厚さを夫々2,3,4,5原子面とする4枚の人工格子試料について室温でスピン波散乱を測定し、全ての試料でスピン波ピークを観測することが出来た。現在、磁性層間に働く交換相互作用を定量的に評価するための解析を進めている。
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