本研究では、様々な磁性体単結晶中に熱励起されたスピン波からのブリルアン散乱測定を行ない、磁性研究におけるブリルアン散乱の有用性の確立を目的とする。まず、装置の性能改善をはかるため、本年度は分光器の心臓部であるファブリ・ペロー干渉計用ミラー2組を購入した。加えて、レンズ、鏡等の光学部品を高性能化した結果、平成9年度の個体レーザー、新設計の分光器制御システムの導入と併せ、装置の性能が本研究開始時点に比べて、検出感度が10倍、分解能が約2倍に向上した。 正方晶単結晶Fe/Au人工格子膜のスピン波測定を行なった。測定に用いたFe/Au単結晶人工格子膜は、東北大金研においてMBE法で作成された。この研究では、Au層を介在としてFe層間に働く層間交換相互作用定数の定量的決定を試みた。各金属層の厚さが2〜5整数原子面を持つ4枚の試料について室温でスピン波散乱を測定し、全ての試料でスピン波散乱を測定することが出来た。スピン波振動数の磁場依存性の結果から、1)層間交換相互作用は強磁性的である、2)偶数原子面の試料に比べ奇数原子面の試料では層間交換相互作用の強さが著しく小さくなり、偶奇間で減衰振動的な振る舞いを示す、3)原子面数の低下に伴い、急激に一軸磁気異方性が増大することが見いだされた。とりわけ2)の結果は層間交換相互作用の新しい側面を端的に示したものであり、本研究で初めて見いだされた。その物理的起因の解明は、層間交換相互作用の微視的起因の理解に重要な役割を果たすことが期待される。 インバー合金Fe_3Pt単結晶についてもスピン波測定を試みた。この試料は非常に硬く、表面の鏡面研磨を十分施すことが出来ず、極めて強い弾性散乱光のためにスピン波ピークを測定することが出来なかった。この課題はインバー効果の起因解明に重要であると考えられるので、今後も継続課題として研究を続けていく。
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