研究概要 |
中性子非弾性散乱実験で得られる散乱関数S(Q,E)を運動量空間で積分したエネルギースペクトルS(E)=∫S(Q,E)dQは、厳密に自己相関関数(同一の位置にある粒子の異なった時刻における相関)<S_0(0)Sβ_0(t)>の時間に関するフーリエ変換に等しくなる。運動量空間で積分するという手法は、これまでの中性子散乱実験では試みられなかったことであるが、近年のパルス中性子非弾性散乱実験手法の進展により、その可能性が生まれた。すなわち、高エネルギー分解能、かつ、広い逆格子空間を同時に測定可能な、逆転配置型中性子分光器が、我が国の高エネルギー物理学研究所中性子散乱実験施設で、ついで、英国ラザフォードアップルトン研究所の大強度スポレーションパルス中性子源で開発され、ブリルアン帯全域での散乱現象を高エネルギー分解能で一挙に測定できるようになった。測定される中性子非弾性散乱強度をひとつのブリルアン帯全域で積分すれば、自己相関関数のエネルギー依存性が得られる。以上の背景のもとに、本研究では、パーコレーションネットワーク上の異常スピン拡散の観測、および、低次元格子上を拡散するスピンに対して提唱されているロングタイムテール現象の直接観測を試みた。昨年、パーコレーションネットワーク上の異常スピン拡散を観測したのにひきつづき、今年度は一次元格子上のスピン拡散の観測を試みた。低次元系のスピン拡散における自己相関関数は古くから、<S_0(0)S_0(t)>〜t^<-d/2>(dは空間次元)で表わされることが知られており(ロングタイムテール現象)、エネルギースペクトルはS(E)〜E^<d/2-1>で与えられる。一次元反強磁性体CsMnBr_3の単結晶試料を用いて高エネルギー分解能実験(15μeV)を行なったところ、低エネルギー領域で、S(E)〜E^<-α>=0.5付近の指数を得た。
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