散逸大自由度系の典型例として、2つの実験系を取り上げ実験と解析を行った。 その一つは、物理システムにおける最も複雑な現象の典型例である発達熱乱流系の実験であり、他の一つは生物の細胞集団における形態と情報の組織化の典型例である培養神経ネットワークの実験である。それぞれについて一定の成果を得た。 第1の発達した熱乱流系においては、Rayleigh-Beanrd対流系を用いて制御パラメータであるレーリー数が極めて高い状態を実現し、究極の熱乱流状態の存在を探求した。従来、極めてレーリー数の高い乱流状態においては、温度境界層と粘性境界層の位置が逆転し、系全体の熱流(ヌッセルト数)がレーリー数の1/2乗に比例する究極状態の存在が予言されていた。本研究では、Prandtl数の極めて小さい水銀を用いることにより、実質的に極めて高いレイノルズ数(低Prandtl数流体における世界記録)を作り出し、二つの境界層の逆転現象を初めて見いだした。また、逆転にもかかわらず熱流の転移は起こらず、この新しい状態は様々な統計量がスケーリング状態になっていることから、従来の予測は誤りで新しい究極状態であるとの仮説を提案した。 また第2の実験として、ラットの大脳皮質から分散培養を行い、ガラス基盤上で神経ネットワークを形成させ、その上に生ずる同期発火現象を観測した。同期発火現象を周期発火、非周期発火、伝搬型の3種に分類し、同期発火クラスターに含まれる細胞を同定する新しい解析方法として、全ての細胞の相関行列、固有値解析、主成分分析などを用いることを提案し、実際に定量化に成功した。
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