笹井と四方のグループは協力して、人工蛋白質の進化に関するスピングラス理論を展開した。活性部位が適切な立体配置をとることは、蛋白質が機能を持つための必要条件である。そこで、「活性部位の立体配置に関する基準によって変異配列が次世代へ受け継がれるか棄却されるかの選択が行われる」という過程をスピングラス模型を用いて表現した。この模型を用いた計算機シミュレーションにより、ランダムな配列から出発して200世帯ほどの選択により、一つのユニークな構造にフォールドする能力を持つ配列を得ることができた。次に、主鎖の立体構造を表現する能力を持つ経験的力場ポテンシャルを用いて、同様のシミュレーションが行われた。このモデルによっても、ランダム配列から出発して200世帯ほどのうちに、ユニークなネイティブ構造にフォールドする能力を持つ配列が選択されることが示された。活性部位の立体配置の揺らぎを減少させるという局所的な性質に関する配列選択だけで、フォールディング能力、コンパクトさ、2次構造、など蛋白質の全体構造に関する性質が進化することが示され、理論と実験双方により、広大な配列空間を機能によって探索することによって蛋白質らしさが獲得される、という重要なシナリオが提示された。機能が向上していく過程で一定の構造、二次構造、コンパクトさが現れること、選択された配列と構造は選択の履歴を反映した特性を持っていることなど、選択過程のダイナミクスを動的なランダムランドスケープ中の運動として分析することにより、複雑系の物理の新しい局面を切り拓くことの重要性が示された。
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